奈良地方裁判所 平成4年(行ウ)11号 判決
原告
馬場克巳(X1)
同
井上信子(X2)
被告
奈良市(Y)
同
森竹彦
右代表者奈良市長
大川靖則
右訴訟代理人弁護士
辻中栄世
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 争点に1について
1 〔証拠略〕によれば、次のような事実を認めることができる。
(一) 被告は、都市計画法一七条に基づき、昭和六二年一二月一一日から同月二五日まで都市計画案を縦覧に供し、同法二〇条に基づき、昭和六三年二月五日付けで都市計画決定の公告をした。
(二) 被告は原告馬場に対し、昭和六三年二月一〇日付け書面をもって、基準地積測量のための現場立会を依頼し、同月二二日、本件土地の測量を実施した。
(三) 被告は、法に基づき、昭和六三年三月一八日から同月三一日まで本件事業に係る事業計画案を縦覧に供し、同年七月一八日付けで本件事業につき事業計画決定の公告をした。
(四) 被告は昭和六三年一一月一五日、原告馬場から本件土地に係る実測地積確認書及び基準地積図にその押印を得た。
(五) 被告は、平成三年二月一三日から同月二六日まで本件事業に係る事業変更計画案を縦覧に供し、同年三月一八日付けで事業変更計画決定の公告をした。
なお、被告は、平成三年四月九日から同月二三日まで本件事業に係る仮換地指定の内容について供覧を実施した。
2 右に認定したところによれば、被告が本件仮換地指定をするについては、法に定められた手続を履行していることが明らかであり、その過程において原告らの意とするところが十分に汲み取られなかったとしても、そのことの故に直ちに右手続が違法であるということはできず、乙第一号証により認められる本件事業の目的等に照らしても、本件仮換地指定が憲法二九条又は一一条、一三条ないし一五条、二五条に違反するということはできない。
二 争点2について
1 法は、仮換地を指定する場合においては、仮換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならないとしているところ(法九八条二項、八九条一項)、右の「照応する」とは、従前地と仮換地とが、通常人がみて、大体同一条件にあると認められるものでなければならないこと(いわゆる縦の照応)をいうとともに、同一事業の施行地区内における他の権利者との公平が概ね保たれていること(いわゆる横の照応)をいうものと解される。
2 そこでまず、縦の照応について検討する。
(一) 証拠(各項の末尾に摘示したもの)によれば、次のような事実を認めることができる。
(1) 本件事業計画においては、本件土地の北東方向に駅前広場(面積五七〇〇平方メートル)が新設され、これを基点として南北に幅員二八メートルの幹線道路(西大寺阪奈線)が開設されるとともに、本件土地の北方に一号公園(面積八六〇平方メートル)が新設されることが予定されている。このため、本件事業に係る仮換地の指定にあたっては、本件土地の北方に位置する土地から順次南側に押していく手法を取らざるを得なかった。(〔証拠略〕)
(2) 本件事業計画においては、本件土地の西方に位置する奈良市西大寺南町二三九八番一、二三八六番一ないし四の各土地がその施行区域から除外されているが、これは、<1>右各土地を施行区域に編入して現地換地したとしても、その西側の道路が拡幅されるのみで宅地の利用増進にはならないこと、<2>二三八六番一の土地にはコンクリート造三階建の村田マンションが、同番二の土地にはプレハブ造二階建の成田ハイツが、同番三の土地にはコンクリート造三階建のマンションがそれぞれ存在し、多数の居住者が生活しているため、右各土地を施行区域に編入した場合には移築補償等に多額の費用が必要になること、<3>仮に右各土地を施行区域に編入した場合には、それぞれの土地の仮換地は街区番号一一の中で左回りに指定されることになり、二三八四番の仮換地は二三八七番三の土地に一部食い込むことになるが、同土地上に存在するコンクリート造三階建の大規模建物を移築することは物理的にも経済的にも不可能であること等の理由によるものであった。そして、このように二三九八番一、二三八六番一ないし四の各土地が本件事業の施行区域から除外された結果、番号一一の街区はそれ自体不整形なものとならざるを得なかった。(〔証拠略〕)
(3) 本件事業の換地設計基準においては、整理後の画地の形状は長方形を標準とし、その間口長は整理前の画地の利用状況及び整理後の画地の土地利用を勘案して定めると規定されている(九条)。しかしながら、番号一一の街区においては、右のようにそもそも街区自体が不整形であるため、なるべく原位置の近くで、しかも減歩率が少なくなるように仮換地を指定しようとすると、一部において若干不整形な仮換地が生ずることは避けられない。このため、本件仮換地指定にあたり被告は、右のような点を勘案しつつ、本件土地評価基準に従って、本件土地の権利指数を三二万〇四〇八と評価した上で、本件仮換地において奥行きが長くなることと三角形の部分が生じることを考慮し、奥行き修正(逓減率〇・九四八)、不整形(三角地)修正(係数〇・九五〇)を施してその指数を三二万〇四〇三と評価した。(〔証拠略〕)
(4) 現況では本件仮換地の位置に排水路があり、その標高も七〇・八八メートルで、本件土地の標高である七一・一九メートルとの間に若干の差があるが、本件事業計画を施行する際には、右排水路を除去し、造成により標高差もなくして標高を七一・三〇メートルに統一することが予定されている。また、本件土地は現況では幅員二メートル強の私道に面するのみであるが、本件事業の施行により本件仮換地においては幅員六メートルの区画街路に面することが予定されている。(〔証拠略〕)
(5) 本件事業施行地区の従前の路線価の最大値は、別紙図面一の近鉄西大寺駅南口の駅前道路(R1)の四・八三三である。本件事業においては、右道路を一〇〇〇個として従前地及び仮換地のすべての路線価指数が定められているが、これを基礎として本件土地評価基準に従って評価すると、本件土地は、路線価(R15)三・七八四、路線価指数七八四、評価指数二八万五五三五、一平方メートルあたりの評価指数約八一四と評価され、他方、本件仮換地は、路線価((R10-1)四・八一三、路線価指数一〇一二、評価指数三二万〇四〇三、一平方メートルあたりの評価指数九三二と評価される。(〔証拠略〕)
(二) 右に認定した事実に、前示本件仮換地指定の内容(争いのない事実等3項)を総合すれば、<1>本件仮換地は全体として若干南へ移動してはいるが、その南側の一部は本件土地に重なっており、ほぼ原位置に指定されていること、<2>その減歩率も全体平均の約三〇パーセントに比し約二パーセントと極めて低くとどまっていること、<3>その形状がほぼ正方形の整形地から長方形の不整形地になることについても、適法に確定された本件事業の施行を前提とすれば、換地設計上の技術的制約からくるやむを得ないものと考えられること、<4>そして、この不利益は面積その他の点で考慮されており、本件仮換地において従前に類似する適当な規模及び構造の住宅を建築するに際しては、いまだ特段の支障が生ずるとまではいえないこと、<5>環境及び土地価格の点でも、一般的には上昇すると評価できる状況にあること等を指摘することができ、これらの諸点に照らせば、本件土地と本件仮換地とは、通常人がみて、大体同一条件にあると認められる範囲内にあるものと認められる。
3 次に、横の照応について検討する。
原告らは、小川所有の二筆の宅地も本件土地と同じく約三メートルの道路に面するのみで、その背面は他人の屋敷であるとし、原告らとその条件はほぼ同じであるのに減歩率に明らかな不均衡があると主長するが、〔証拠略〕によれば、小川所有の二筆の宅地が前面のみならず背面においても道路に面していることは明らかであり、これを前提として評価すれば、小川に対する仮換地指定の内容と本件仮換地指定の内容とは、概ね公平であると認められる。
また、原告らは、本件事業において有力者らが特別に優遇されていると主張するが、本件仮換地指定の適否に影響を及ぼすような偏頗な扱いがあったことを認めるに足りる証拠はない。
4 そうすると、本件仮換地指定は、縦横いずれの点においても照応しており、法九八条二項、八九条一項の定める照応の原則に適合しているものと認められる。
(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 石原稚也)